小花美穂先生の作品は『リアルな感情』『明るいギャグと重いテーマの共存』を特徴とするものが多く、“少女漫画”の枠を超えた重厚なテーマと人間ドラマが魅力。
“こどちゃ”を読んだ貴方ならハマるであろう、小花ワールドをご案内。
※重大なネタバレなし。
“重さ”と“人間の危うさ”が際立つ、深い読後感を味わえる1冊完結作品。
- 【水の館】
“こどものおもちゃ”の作中で紗南ちゃんと直澄くんが主演した映画の全容が描かれる。 - 【POCHI】
ストレス女王とノーテンキ大王…そして後の“MIKE編”が収録されている。 - 【Deep Clear】
“こどものおもちゃ”דHoney Bitter”の特別番外編。
すべて、“感情の重さ”が味わえる短編作品である。
▶関連記事:“Deep Clear”で大人になった紗南ちゃんの子ども時代が読める!漫画【こどものおもちゃ】ネタバレなし感想は、こちら。
水の館(初版発行 1999年)
短編でありながら濃くて重いサスペンス。
単体で完結しているため、こどちゃを知らなくても十分楽しめる。
こどちゃ本編にも断片的に【水の館】のカットがある。
これを全部読めると知ったときの感動は底知れなかった。
【あらすじ】
不慮の事故で両親を失い、身寄りがなくなってしまった鈴原浩人(スズハラ ヒロト)は、6年前に行方不明になった実の兄の存在を思い出す。
わずかな手がかりを得て辿り着いたその先に待ち受けていたのは、想像を絶する現実だった。
炸裂する小花ワールド
幽霊や抜けられない闇など、小花先生ならではの世界が炸裂している。
子どものころに読んだ時はちょっと…非常に恐怖だった(特に真子が若干トラウマ)。
これが“りぼん”作品じゃなかったなら、もっとドロドロに描かれていたと思う。
最近読み返したら、ただ怖いだけという印象は消え失せた。
閉ざされた館で6年間過ごしてきた3人の背景が、断片的な説明でも十分に想像できる秀逸な描写が素晴らしい。
最初から最後までだれもかれもが可哀想な上に、終盤にさしかかるととても切ない展開が待っている。
そして、想像を膨らませるようなラスト……。
小花先生本人のコメントを含め、このラストが『救い』なのか『絶望』なのか…ぜひその目で確かめてほしい。
失うことと赦すこと。
人の弱さと優しさ。
小花先生らしい繊細で深い物語。
フィクションの中のフィクション
こどものおもちゃでは、水の館のロケが電波の通らない山奥で3ヵ月ほどかけて行われた。
このロケ中にさまざまな出来事が起きた。
- 紗南ちゃんと直澄くんのゴシップ記事が世間に出回る
- 直澄くんのファンにより紗南ちゃんが大変な目に遭う
先にこどものおもちゃを読んでいたことで“浩人”と“真子”ではなく、“直澄くん”と“紗南ちゃん”として読んでしまった気がする。
水の館がとても切なく哀しいストーリーだったことに間違いはない。
だが、“こどものおもちゃの中の映画”として読み、そもそもフィクションでありながら“フィクションの中のフィクション”のような現象が私の中で起きていた。
『水の館』ウラ話
こどものおもちゃで水の館の撮影ウラ話を読むことができる。
水の館でも、こどものおもちゃに掲載されていない撮影ウラ話を読むことができる。
2倍楽しめるわけだ。
POCHI(初版発行 2003年)
悪意のない純粋さが危うい斗望。
一見コミカルな設定の裏に隠された、目を背けたくなるような現実が描かれる。
私は水の館に収録されているPOCHIを読んだ。
その後に続編があることを知り、続編も収録された【POCHI】も読んだ次第。
- 1999年【水の館】に収録されているのは【POCHI】のみ
- 2003年【POCHI】に収録されているのは【POCHI】と続編の【POCHI ~MIKE編~】
初めてであればまず【水の館】から、続編も一気に読みたい場合は【POCHI】を推奨。
【あらすじ】
◆POCHI◆
ストレスチェックにより『ストレス女王』と呼ばれるようになった中学3年生の清香(サヤカ)。
清香は塾へ向かう途中、犬の散歩さながらに首輪とリードを付けられた男の子の散歩をする家族を目にした。
塾が終わった後に友達に誘われて行ったお店で、清香はさっき見かけた男の子・斗望(トモ)と出会う。
◆MIKE編◆
山奥で祖父と自給自足生活をしている、中学1年生の三宅美紅(ミヤケ ミク)。
学校で女子からの人気が高い先輩、3年生の有賀斗望(アルガ トモ)と川村哲(カワムラ テツ)に声をかけられる。
これを機によくつるむようになり、次第に美紅は斗望に惹かれ始める。
POCHI|裏表のない“純粋”さが怖い
清香が対極なる性質を持つ斗望に惹かれるのはわかる。
しかし斗望は純粋無垢すぎるゆえに裏表がまったくないので時々怖い。
斗望は清香の重たい願いを叶えようとする。
しかし、苦しくなった清香が「助けて」と言ったら即座に助ける。
斗望の行動に悪意はない。
むしろ清香の気持ちを尊重した結果の行動であり、相手の言葉をそのまま受け取り行動する危うさがある。
このまっすぐすぎる心が斗望の魅力なのでしょう。
正反対の2人でちょうどいい清香と斗望。
内容はシリアスだが、斗望の純粋さに救われながら読みきれた。
MIKE編|これはこれでよかった?
中学3年生になっても根は変わらない純粋男子、斗望。
ミケこと美紅は、そんな斗望に惹かれる。
そこは清香と一緒だが、ミケは清香とは違ったタイプ。
明るくノリのいい性格が、どこか斗望のまっすぐさと響き合っている気もする。
清香の「彼のピュアさに応えていける自信が揺らいできた」というのもちょっとわかる気がする。
清香は真面目すぎるため、いっぱいいっぱいになってしまうかもしれない。
“純粋すぎる人”と関わることの難しさを考えさせられる。
POCHIがキレイに終わったから続編はなくてもいいのではと思っていたが、これはこれでよかったのかもしれない。
重厚社会派ストーリー
斗望は首輪とリードを付けられていた過去があった。
清香はなんでも背負いこみ、自分で気づかないうち大きなストレスを抱えた。
ミケは両親に悩みと葛藤を抱いている。
POCHIもMIKE編も、キャラクターたちは裏に重たい問題を抱えている。
いまなら意味もわかるし、切実に受け止めつついろいろと考えさせられた。
ほかの作品もそうだが、重たいテーマを扱いながら胸に響くようなストーリーを作り上げる小花先生は本当にすごい人である。
Deep Clear(初版発行 2010年)
デビュー20周年記念“こどものおもちゃ”דHoney Bitter”特別番外編。
【Honey Bitter】の主人公、人の心が読める特殊能力を持つ珠里。
【こどものおもちゃ】の主人公、女優の紗南ちゃんが共演する素晴らしきコラボ!
両作を知らなくても十分に楽しめるとは思うが、知っていたほうがより楽しめるとも思う。
Deep Clearを本屋で見つけたとき、少々興奮気味に「大人になった紗南ちゃんに!会える!?読む!」といった経緯で衝動買い。
軽いノリで描き上げた作品だそうだが、ファンにはたまらないご褒美のような作品。
さらに、ここでしか読めない“直澄くん”のその後の描き下ろしも収録されている。
【あらすじ】
“オフィス・S”の音川珠里(オトカワ シュリ)のもとに現れたのは、女優の倉田紗南(クラタ サナ)とマネージャーの相模玲(サガミ レイ)。
役作りのための取材を依頼したいと紗南は言う。
珠里は対価として、女優のプロの演技術を学ばせてもらうということで交渉は成立。
さらに珠里は、相模から極秘で紗南の夫・羽山秋人(ハヤマ アキト)の“浮気調査”を依頼される。
大人になった紗南ちゃん
Honey Bitterも読んだが、私の小花作品デビューが【こどものおもちゃ】。
だからなのか、珠里目線で展開される物語なのに紗南ちゃんを主体にして読んでいた。
紗南ちゃんの変わらない明るさとノリとギャグ。
懐かしさの宝箱すぎる。
紗南ちゃんと羽山の他、玲くん、お母さん、ほんの少しだけだったけど剛くんと亜矢ちゃん、風花も登場する。
こどちゃを読んだなら、大満足できるに違いない。
Deep Clearに込められたもうひとつの意味
人の心が読める珠里は、人が纏う“気”を感じることができる。
タイトルの【Deep Clear】は、紗南ちゃんの“気”のイメージであるとともに『心の奥深くにある傷をクリアにする』という意味も含まれている。
読んで納得。
玲くんから極秘で“羽山の浮気調査”も受ける珠里だが、そこには過去の苦悩と葛藤する羽山の姿が描かれる。
『特殊能力×女優×過去の苦い記憶』
すべてが上手く絡み合って展開する。
大人になった推し
直澄くんは、こどものおもちゃに登場するとても“深い”キャラクター。
そんな彼のその後が意外(?)な結果とともに描かれている。
ずっと報われなかった直澄くんだが、Deep Clearで描かれた彼の『選択』と『今』には強い納得感があるため、私個人は満足だった。
独特な世界観を楽しめる?合う人・合わない人
★こんな人に合うかも!
【水の館】
- ストーリーの全容を知りたい
- 恐怖と切なさを味わいたい
【POCHI】
- 純粋すぎる危うさに触れたい
- 衝撃的なストーリーが好き
【Deep Clear】
- 紗南ちゃんと羽山のその後が知りたい
- Honey Bitter・こどものおもちゃを読んだ
★こんな人には合わないかも…
【水の館】
- 心霊的な怖さが苦手
- しんどすぎる物語が苦手
【POCHI】
- 現実的なシリアスな物語が苦手
- 家庭問題に強い拒否感がある
【Deep Clear】
- 少女漫画に特殊能力を求めていない
- “こどものおもちゃ”キャラが『大人』になった姿を見たくない
『水の館・POCHI・Deep Clear』まとめ
個人的にはやっぱり、こどちゃの続編でもあるDeep Clearが1番好き。
小花ワールド特有の“内面にある重さ”を味わえる名作と呼べる短編作品たちだった。
貴方もぜひ、小花ワールドへ飛び込んでほしい。



