「紗南でぇーっす!」が印象深い【こどものおもちゃ】。
作品に触れたことがなくても、タイトルだけなら聞いたことがある人も多いのでは?
だがこの作品、実は少女漫画でありながら少女漫画ではないのだ。
圧倒的密度で描かれる心理は、年齢性別問わずに突き刺さる。
アニメでは描かれなかった衝撃展開を読めば、心を抉られること間違いなし。
私は昔『なかよし』派だったため、『りぼん』派だった友達から単行本を借りて読んでいたが、当時は紗南ちゃんが陥った状態をあまり理解できていなかった。
せっかくキャラクターの心理描写が深く描かれているのに、共感できる部分のみを拾って、雰囲気だけで読んでいたに違いない。
それから十数年…ふと思い出し、猛烈に読みたくなり全巻購入し再読を果たす。
深く描かれた部分に心を抉られすぎて、当時とはまったく違う重みを味わった。
…なにがそんなに心を抉ってくるというのか?
※重大なネタバレなし。
人間の心のリアルを真正面から描く、社会派ストーリーである。
芸能界で活躍する人気子役の明るい紗南ちゃんと、クラスメイトで問題児の羽山秋人。
その裏にある“現実”が、かなり重たい。
これは読んで衝撃、“少女漫画”の枠を超えた、完全に子ども向けではないのが【こどものおもちゃ】である。
1994年8月号より、りぼんにて連載。全10巻(完全版:文庫版 全7巻)。
心を抉る圧倒的心理描写と完成度
こどものおもちゃは、紗南ちゃんのマシンガントークを始めとするさまざまなギャグ要素が盛り込まれている。
このギャグで読み手の警戒を解き、重いテーマを叩き込んでくるのだ。
非常にバランスがとれているため、ずっとしんどいまま読み続けることにはならないはず。
奥まで踏み込んだ描写
一見すると子どもの成長と恋愛を描いた王道漫画のようだが、青年誌で連載しても違和感がないくらいに深くてリアル。
そもそも小花先生が描くストーリーはどのタイトルも王道ではない。
読み始めたら小花ワールドにハマること間違いなしである。
こどものおもちゃは、子どもたちの無邪気な日常の裏にある家庭や学校で起きうる問題、心の傷や孤独などの“現実的な事象”が真正面から描かれる。
どの問題も決して軽く扱われることはなく、その奥にある人の心までしっかりと掘り下げられるのだ。
大人が思っているよりも、子どもの心は複雑
子どもたちは学校生活や家庭、友情や恋愛など日常でさまざまな悩みや葛藤に直面していく。
紗南ちゃんたちは小学6年生~中学生へ、ちょうど思春期の難しいお年頃へと成長。
思ったようにいかないもどかしさ、張りつめた感情、葛藤……。
子どもならではの感情の揺れや、“演じる自分”と“本当の自分”のズレ。
“子どもだから”という大人の慢心を見事に打ち砕き、ひとりの人間としての尊厳が描かれている。
“子ども”と“大人”の境界に立つ子ども達の心は複雑で繊細なのだ。
大人が思っているよりも子どもは子どもではなく、また大人も未熟な部分を抱えている…そんなリアルさもある。
フィクションでありながら、かなりの現実味を感じられる。
すべてが濁されず真摯に描かれていることが、心に刺さる理由だと思っている。
アニメでは描かれなかった“9巻”の深淵
芸能界で活動する主人公、明るく元気でまっすぐな紗南ちゃんに憧れを抱いた読者は多いと思う。
そんな紗南ちゃんのような人でも、ちょっとのことで心のバランスが崩れてしまうということがしっかりと描かれる。
この“ちょっとのこと”は、あくまでも“他人から見るとそう見える”だけで、本人にとっては重大なことである。
無理に励ましたり頑張らせてはいけないという、人の心の繊細さが丁寧に描かれるのだ。
この展開が描かれたのは1998年発行の9巻。
アニメではカットされているため、漫画初見だと結構な衝撃かもしれない。
しかし、重たいテーマの中にもテンポのいいギャグを随所に挟み、暗い気持ちにばかりさせない見事なバランスを作るのが小花先生の魅力。
とはいえこの辺りだけは、これまで紗南ちゃんの明るさで支えられてきた部分が大きいため、読んでいて少し苦しくなるかもしれない。
羽山の“心の闇”を救った紗南ちゃんが、今度は救われる番。
紗南ちゃんが自覚していない“心の闇”がどのように救われるのか、見届けてほしい。
9巻が発売された翌年の1999年。
このころに『鬱は心の風邪』などの言葉が広がり始めた。
小花先生は、“心のケア”などの概念すら一般的ではなかった時代に、だれにでも起こり得る“心の糸が切れてしまう”現象を鮮明に描いたのだ。
キャラクターの人間らしさ
全員が強力な個性を持ちながらも、どこか実在しそうな人間味があるキャラクターたち。
それぞれに抱えているものがあり、葛藤や苦悩が丁寧に描かれる。
このキャラクターひとりひとりも【こどものおもちゃ】の大きな魅力である。
個人的に、特に印象が強かった2人を紹介したい。
色んな意味で強烈!紗南ちゃんの母“実沙子(ミサコ)”
自身の頭にリスの“まろちゃん”を飼っていて、家の中をゴーカートで暴走する人だ。
このように普段は破天荒だが、物事を冷静に受け止められる素晴らしい人である。
紗南ちゃんが幼いころに母子2人で交わした約束以外で紗南ちゃんを縛ることはなく、娘の意思を尊重し信頼する、理想的な親子関係を築いている。
この交わした約束も無理やりしたものではないが、結果として紗南ちゃんを悩ませることになってしまった。
しかし、この約束が果たされたとき、冷静でありながらも感情が溢れ出るお母さん。
倉田家だからこそのお母さんのこの気持ちには、胸が締め付けられる思いになる。
誰よりも心が優しい美少年“直澄(ナオズミ)”くん
こどものおもちゃの子どもたちはみんなどこか大人っぽいが、直澄くんはズバ抜けている。
羽山も言ってた通り、彼は『深い』のだ。
私の子どものころの推しは羽山だった。
周囲への反抗心が強い羽山は、登場時の印象がよくない。
しかし物語が進むうちに、不器用ながらに一途に紗南ちゃんを想う『深さ』を見せ始める。
そんなギャップに惹かれた。
でも、読み直した現在は直澄くんに推し変。
この歳で大人顔負けな気持ちを貫く直澄くんは、作中のだれよりも大人だった。
羽山も『深い』感情を持ってはいるが、それを簡単にやってのけるのが直澄くん。
相手の気持ちを汲み、尊重し、心から相手の幸せを願うことができる人である。
興奮状態になると唐突にラッパを吹き始める様子のおかしい美少年。
……このギャップがまたたまらない。
直澄くんには、漫画を読みながら本当に幸せになってほしいと思ったものだ。
作中の映画「小ネタ」
【こどちゃで描かれた『水の館』】
作中で紗南ちゃんと直澄くんが出演した映画『水の館』。
なんと1冊の漫画として存在するため、全容を知ることができる。
さらに、こどものおもちゃのその後!大人になった紗南ちゃんと羽山に再会できるHoney Bitterとのコラボ作品【Deep Clear】も発売された。
【水の館】【Deep Clear】、水の館と一緒に収録されている【POCHI】まで、すべて1冊読み切りの小花ワールドも、ぜひ味わってほしい。
“しんどい”展開に耐えられる?合う人・合わない人
★こんな人に合うかも!
- 小花作品が好き
- シリアスとギャグ両方を全力で楽しみたい
- アニメは観たけど漫画は読んでいない
★こんな人には合わないかも…
- キラキラした少女漫画を読みたい
- 重たいテーマが苦手
- 賑やかなギャグやノリが苦手
『こどものおもちゃ』まとめ
子どもの目線で描かれるストーリーだから、もちろん同じ年頃の子が読んで共感できる部分も多いが、大人が読むとより深く刺さるはず。
こどものおもちゃが何年経っても色褪せないのは、時代が変わっても人の心は変わらないからだろう。
こどちゃは、少女漫画という枠を超えた屈指の名作だと思っている。
アニメ・漫画どちらも触れたことがなくても、衝撃の作品に触れたい貴方にぜひ。



